写真家としてよりまず人間でありたい。

紛争地へ行き、その国の悲惨さやそこに暮らす人々の状況を自分の目で見、写真として記録するたびにいつもそんなことを考えている。もしかしたら写真には写せないもの、写らないものがあると常に感じているからかもしれない。
今まで写真として表現されたものではなく、写真として表現しきれなかった事こそが、本当の「戦争」の姿だと思う。

ふと一枚の写真を見て、これは現実なのだろうかと思う瞬間がある。確かにそこには実在する被写体が移っている。その写真を通じて私たちが見る世界は、見ている私たち一人ひとりの世界であって、それは現実でもあり非現実なのだろう。
「戦場」には色があり、音が聞こえ、においを感じ、感触がある。今日も人々の暮らしがあり、新しい命が生まれ、誰かが死んでいく。そこには感情が存在し、暑かったり、空腹だったり、幸せだったりする。フレーミングされた写真という限られたものを通じて、そのフレームの外側に広がる限りない現実を伝えたいと思っている。
正直、こうして戦争や貧困に苦しむ人々の写真を撮り、発表してもそれがどれだけ彼らのためになっているかわからない。それでも一人でも多くの人に見てもらって何かを感じてもらいたい。

世界にはこんなところがあるのだと気づいてくれるだけでもいい。
それからもっと深く知りたいと思って学ぼうとする人が出てきてくれるかもしれない。何かしなくては、と募金をする人がいるかもしれない。
もっと身近な家族や友達を大切にしようと思うだけでもいい。
昨日の自分を反省するだけでもいい。
そして明日からがんばろう!と思ってくれるだけでもいい。それが直接じゃなくても世界のどこかで苦しんでいる人々を少しでも幸せに出来ると信じている。そのとき本当の意味で写真が何かを語りだすのだろう。